相続放棄の期限はいつまで?熟慮期間と「初日不算入」の関係を弁護士が解説

相続放棄に関するQ&A

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相続放棄の期限はいつまで?熟慮期間と「初日不算入」の関係を弁護士が解説

Question

相続放棄の期限が迫っています。

民法の「初日不算入」というルールで、期限は少し延びたりしますか?

Answer

相続放棄の期限(熟慮期間)にも「初日不算入」の原則が適用されます。

そのため、「ご自身が相続人になったと知った日」の翌日から3ヶ月で計算しますので、思っているよりも1日長く期限が設定される可能性があります。諦める前に、まずは正確な期限を確認しましょう。

1 あなたのケースはいつまで?相続放棄期限の具体例

「初日不算入」を適用すると、実際の期限がどうなるか見てみましょう。

具体例①:相続人である子が、7月1日午前10時に相続発生の事実を知った場合
・この場合、知った当日(7月1日)は含めず、翌日の7月2日から3か月が熟慮期間となります。
・したがって、期限は10月1日の深夜24時までとなります。

具体例②相続人である兄弟姉妹が、7月1日午前10時に相続発生の事実を知ったが、先順位相続人である子や父母が相続放棄した事実を9月1日午前10時に知った場合
・この場合、先順位の相続人が相続放棄した事実を認識し、ご自身が相続人になったと知った9月1日の翌日である9月2日から3ヶ月が熟慮期間となります。
・したがって、期限は12月1日の深夜24時までとなります。

熟慮期間の起算日については、以下の関連記事もご覧ください。
関連記事;亡くなった親族の借金…債権者からの通知で相続放棄の期限はスタートする?

2 なぜ期限が1日延びる?「初日不算入」のルールとは

法律の少し難しい話になりますが、要するに「期間を計算するときは、初日をカウントせず翌日から数える」というルールが法律で定められており、それが相続放棄にも適用される、ということです。
以下で、その根拠となる法律(民法)の条文や裁判例を見ていきましょう。

期間を日、週、月又は年で定めた場合、期間が午前0時から始まらない限り、期間の初日は参入しない(民法140条)とされています(初日不算入の原則)。

初日不算入の原則が適用される場合、期間が初日の午前0時から始まらない限り、期間は初日の翌日から起算されることとなります。
たとえば、「7月7日午前10時に、7月7日から3日間」との期間を定めた場合、翌日である7月8日から3日間が期間となり、7月10日の24時に期間が満了することとなります。

民法138条は、「期間の計算方法は、法令若しくは裁判上の命令に特別の定めがある場合又は法律行為に別段の定めがある場合を除き、この章の規定に従う。」として、法令に異なる定めがある場合や当事者の合意がある場合などについて初日不算入の例外を認めています。

しかし、熟慮期間について、初日不算入の原則の適用を排除する法令や判例などは存在しません。
また、熟慮期間は、債務の履行期などとは異なり当事者が合意により定めることができるものではありません。

そのため、熟慮期間についても初日不算入の原則が適用されるといえます。
熟慮期間について初日が算入されないことを明示的に述べた裁判例として山形家裁昭和57年9月16日審判・家月 35巻12号96頁が存在します。

山形家裁昭和57年9月16日審判・家月 35巻12号96頁

「このように見ると、申立人らについての熟慮期間の始期は被相続人の死亡日である昭和五六年一〇月二五日(初日は算入しない)とするのが相当である。そうすればその終期は昭和五七年一月二五日となる。」

午前0時に相続発生の事実を知った場合は?
民法140条で期間が午前0時から始まる場合に初日を算入することとされているのは、午前0時から始まるのであれば初日を算入しても期間に不足が生じないからです。

そのため、民法140条の午前0時とは、午前0時0分0秒を意味すると考えられるところ、午前0時0分0秒ちょうどに相続発生の事実を知る事態というのは通常は想定し難いため、よほど特殊な事例でない限り、熟慮期間については初日不算入と考えて問題はないでしょう。

3 熟慮期間ギリギリ!取るべき対応

熟慮期間ギリギリに相続放棄を行う場合、熟慮期間内に相続放棄申述書を提出できたかどうか不安になります。
その場合、相続放棄申述書の控えに受付印を貰った上で保存しておくと、期限内に手続きを行ったことの確かな証拠となり、後々のトラブルを防ぐことができます。

※本記事では「熟慮期間と初日不算入の関係」について解説いたしました。
しかし、実際の事案では個別具体的な事情により法的判断や取るべき対応が異なることがあります。

そこで、相続問題についてお悩みの方は、本記事の内容だけで判断せず弁護士の法律相談をご利用いただくことをお勧めします。