
遺産分割に関するQ&A

遺産分割に関するQ&A
別居中や離婚裁判中でも配偶者は相続人になる?「死別」した際の相続権と注意点を弁護士が解説
Question
夫と別居して離婚協議(または調停・裁判)を進めています。
決着がつく前に夫が亡くなった場合、妻である私は相続人になれるのでしょうか?

Answer
現在までの裁判例等を前提にすると、満期保険金は、可分債権であたるため原則として相続発生と同時に当然分割され、相続人間の合意がない限り遺産分割の対象とはならないと考えられます。
もっとも、預貯金債権が判例変更により遺産分割の対象財産とされたことを踏まえ、今後、満期保険金についても同様の判決が出る可能性が無いわけではありません。
満期保険金については、その他に死亡保険金とは異なり相続放棄した場合には相続には受け取ることができない点及び消滅時効が請求できる時から3年とされている点に注意が必要です。
満期保険金と遺産分割の関係について、より詳しくお知りになりたい方は以下をご覧ください。
1 別居・離婚手続中でも相続権が認められる理由
民法第890条では、「被相続人の配偶者は、常に相続人となる」と定められています。
たとえ夫婦仲が悪化し、何年も別居していたとしても、あるいは離婚裁判の真っ最中であったとしても、役所に離婚届が受理される前にどちらかが亡くなった場合、法的には「配偶者」のままです。
配偶者の法定相続分(取り分)
他の相続人が誰になるかによって、配偶者の取り分は以下のように変わります。
| 相続人の組み合わせ | 配偶者の相続分 |
|---|---|
| 配偶者のみ | 1/1(すべて) |
| 配偶者 + 子(または孫など) | 1/2 |
| 配偶者 + 直系尊属(父母・祖父母など) | 2/3 |
| 配偶者 + 兄弟姉妹(または甥・姪) | 3/4 |
※上記は遺言書がない場合の法定相続分です。遺言がある場合は、原則として遺言内容が優先されます。
「死後離婚(姻族関係終了届)」をしても相続できる?
配偶者の死亡後に姻族関係終了届を提出することで、配偶者の血族等との間の姻族関係を終了させることができます(民法728条2項、戸籍法96条)。
これにより、配偶者の両親等と法的に縁を切ることが可能となります。
婚姻関係終了届を提出することを、巷間では「死後離婚」と呼ぶことがあるようですが、法的にはあくまで姻族関係を終了させるという効果を持つ行為にすぎません。
そのため、姻族関係終了届を提出した場合でも、配偶者が相続人になることには変わりありません。
2 「全ての遺産を他人に譲る」という遺言書があった場合
被相続人が、生前、配偶者以外の相続人に「全ての遺産を相続させる」との遺言書を作成していた場合や第三者などに「全ての遺産を遺贈する。」との遺言書を作成していた場合、遺言書が無効でない限り、配偶者は遺産を相続できないこととなります。
このような遺言書が遺されていた場合、配偶者としては遺言書の有効性を争う余地がないかを検討した上、遺言書が有効であると判断した場合には遺留分の請求を行う必要があります。
遺留分(いりゅうぶん)とは 一定の範囲の法定相続人に保障された「最低限の取り分」のことです。
配偶者の取り分(遺留分の割合):配偶者の場合、法定相続分の2分の1
例えば、配偶者と子が相続人の場合、配偶者の遺留分は遺産全体の4分の1となります。
【重要】時効に注意:遺留分の請求(遺留分侵害額請求)は、「相続の開始」と「遺言の内容」を知った時から1年以内に行う必要があります。(民法1048条)。
3 相続権を失う特殊なケース(欠格・廃除)
例外的に、以下のケースでは相続権を失います。
① 相続欠格(民法891条):特定の非行を行った相続人の相続権を、法律上当然に剥奪する制度です。
具体的には、相続人が、被相続人を死亡させて刑に処せられた場合や(同条1号)、遺言書を偽造した場合(同5号)などが挙げられます。
②相続人の廃除(民法892条、893条):被相続人の意思に基づき特定の推定相続人の相続資格を剥奪する制度です。
具体的には、推定相続人が被相続人に対し虐待をした場合や相続人が著しく素行不良な場合などに、被相続人が生前に家庭裁判所へ廃除の審判を申し立てた場合や遺言で推定相続人を廃除する意思表示を行った場合に、家庭裁判所が理由があると認めたときに推定相続人が相続権を失うこととなります。
ただし、単なる夫婦仲の悪化や別居、性格の不一致程度では、家庭裁判所に廃除が認められる可能性は低いといえますのでご安心ください。
なお、欠格事由に該当しまたは廃除により相続権を失うことは代襲原因(民法887条2項、3項)ですが、配偶者については代襲相続が生じないため、配偶者の直系卑属が配偶者の相続分を取得するということにはならない点には注意が必要です。
欠格事由に該当し、又は廃除によって相続権を失ったときでも遺留分の請求は可能?
遺留分を請求できるのは、「兄弟姉妹以外の相続人」です(民法1042条1項)。
そのため、欠格事由に該当し、又は廃除によって相続権を失った時でも遺留分の請求は可能であるようにも思われます。
しかし、遺留分はあくまで「兄弟姉妹以外の相続人」に認められているところ、相続欠格、廃除により相続権を失った者は「相続人」ではなくなることから、遺留分の請求を行うこともできません。
※本記事では「別居し離婚協議や離婚調停、離婚裁判をしている場合でも配偶者は相続人になれるか?」について解説いたしました。
しかし、実際の事案では個別具体的な事情により法的判断や取るべき対応が異なることがあります。 そこで、相続問題についてお悩みの方は、本記事の内容だけで判断せず弁護士の法律相談をご利用いただくことをお勧めします。
民法第890条(配偶者の相続権)
被相続人の配偶者は、常に相続人となる。この場合において、第八百八十七条又は前条の規定により相続人となるべき者があるときは、その者と同順位とする。
民法第728条(離婚等による姻族関係の終了)
1 姻族関係は、離婚によって終了する。
2 夫婦の一方が死亡した場合において、生存配偶者が姻族関係を終了させる意思を表示したときも、前項と同様とする。
戸籍法第96条
民法第七百二十八条第二項の規定によつて姻族関係を終了させる意思を表示しようとする者は、死亡した配偶者の氏名、本籍及び死亡の年月日を届書に記載して、その旨を届け出なければならない。
民法第1048条(遺留分侵害額請求権の期間の制限)
遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。
民法第891条(相続人の欠格事由)
次に掲げる者は、相続人となることができない。
一 故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者
二 被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。
三 詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者
四 詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者
五 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者
民法第892条(推定相続人の廃除)
遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下同じ。)が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。
民法第893条(遺言による推定相続人の廃除)
被相続人が遺言で推定相続人を廃除する意思を表示したときは、遺言執行者は、その遺言が効力を生じた後、遅滞なく、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求しなければならない。この場合において、その推定相続人の廃除は、被相続人の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。
民法第887条(子及びその代襲者等の相続権)
1 第八百八十七条 被相続人の子は、相続人となる。
2 被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。ただし、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。
3 前項の規定は、代襲者が、相続の開始以前に死亡し、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その代襲相続権を失った場合について準用する。
民法第1042条(遺留分の帰属及びその割合)
1 兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第一項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。
一 直系尊属のみが相続人である場合 三分の一
二 前号に掲げる場合以外の場合 二分の一
2 相続人が数人ある場合には、前項各号に定める割合は、これらに第九百条及び第九百一条の規定により算定したその各自の相続分を乗じた割合とする。

