状況
Mさんの夫は借金を抱えたまま亡くなったため、MさんとMさんの子どもたちは相続放棄をしました。
Mさんとしては、これで相続問題は解決したものと考えていました。
しかし、相続が発生して約1年後、突然、夫の姉が怒りながら連絡をとってきました。話を聞くと、夫の借金について、債権者から夫の兄弟姉妹や甥姪に請求がなされているとのことでした。
Mさんは、親族と連絡を取ることが精神的に負担となり困り果てた末、「夫の兄弟姉妹や甥姪全員分の相続放棄を弁護士に依頼したい」と考え、当事務所にご相談されました。
弁護士の活動
1 後順位相続人への連絡と相続放棄の案内
Mさんは、自分たちが相続放棄をすればすべて解決すると考えていましたが、実際にはMさんや子どもたちが相続放棄をしたことで、後順位相続人である夫の兄弟姉妹や甥姪が相続人となってしまいました。
Mさんは、「迷惑をかけたくない」との思いから、他の相続人全員分の相続放棄の費用を負担することを決意しました。
ただ、以前、Mさんは夫の姉から電話口で怒られたこともあり、自身では連絡を取るのが難しい状況でした。
そこで、弁護士は、まず連絡先が分かっている夫の姉に電話した上、相続人の人数や氏名、住所を確認しました。
その上で、相続人12名に対し、現在相続人となっていること、そして相続放棄を希望する場合はMさんが費用を負担する意向であることを伝えました。
その結果、全員が相続放棄を希望したことから、Mさんの費用負担により相続人12名分の相続放棄を弁護士が一括して対応することとなりました。
2 債権者への対応
相続人12名は、借金の請求を行ってきた債権者への対応に困っていました。
そこで、弁護士は相続人12名との間で委任契約を締結した後、すぐに債権者に対し、「弁護士が委任を受けたこと。」、「相続放棄を予定しており、債務の弁済はできないこと。」を書面で通知しました。
また、相続放棄が受理された後にあらためて相続放棄が完了した旨を通知しました。
その結果、相続人12名は弁護士に委任した後は債権者から一切連絡がなくなり、債権者に対応する必要がなくなりました。
3 相続放棄申述
弁護士が必要な戸籍等を収集し、委任契約締結から約1か月で家庭裁判所へ相続放棄申述を行いました。
ポイント
1 相続放棄が必要となる人の範囲
(1)相続人の範囲と順位(民法887条、889条、890条)
相続人となる者及び相続順位について、以下のとおり規定されています。
【配偶者】
常に相続人となる。
配偶者以外の相続人(第1順位~第3順位)がいる場合、当該相続人と同順位となる。
【第1順位】
・子
・子の代襲相続人(代襲相続人に代襲原因が生じていた場合には再代襲相続人)
【第2順位】
・直系尊属(親等の近い者が優先。)
【第3順位】
・兄弟姉妹
・兄弟姉妹の代襲相続人(甥、姪)
※昭和56年1月1日以降に発生した相続では、甥姪の子には再代襲は発生しません(民法889条2項、887条3項)。
※被相続人の子や兄弟姉妹に用紙がいる場合の相続人については、「養親・養親の実子が亡くなった場合、養子の子は代襲相続できる?」、「養子は兄弟姉妹の相続人になれる?実子との違いはある?」をご覧ください
(2)相続放棄を行う必要がある者の範囲
相続放棄をすると「初めから相続人とならなかった」とみなされる(民法939条)ため、先順位の相続人が相続放棄をすると後順位の相続人があらたに相続人となります。
例えば、
・子どもが全員相続放棄→父母(第2順位)が相続人となる
・父母などの直系尊属が全員相続放棄→兄弟姉妹(第3順位)が相続人となる
このように、第1順位や第2順位の相続人が相続放棄する場合、後順位の相続人が新たに相続人となるため、放棄の範囲を事前に把握しておくことが重要です。
2 高順位相続人の相続放棄の費用はだれが負担すべき?
本来、相続放棄は本人の意思及び負担で行うべきものです。
そのため、法的には先順位の相続人が後順位相続人の相続放棄の費用を負担すべき理由はありません。
ただし、先順位相続人と後順位相続人の間には親族関係があるため、「迷惑をかけたくない」、「今後の人間関係を悪化させたくない」といった配慮から、先順位相続人が任意に相続放棄の費用を負担するケースはあります。
3 債権者対応
相続放棄でしばしば問題となるのが債権者への対応です。
対応を誤ると相続を単純承認した(民法921条)とみなされるリスクもあることから、債権者対応は慎重に行う必要があります。
当事務所では相続放棄申述だけではなく債権者対応についてもご依頼をお受けしておりますので、債権者対応にご不安な方はお気軽にご相談ください。
4 第3順位の相続人は戸籍の収集に注意が必要
今回のように兄弟姉妹や甥姪(第3順位の相続人)が相続放棄を行う場合、必要となる戸籍等が非常に多くなるケースがあります。
しかし、第3順位の相続人は「戸籍の広域交付制度」の対象外であるため、複数の市町村役場に個別に戸籍等を請求しなければならないこともあります。
※戸籍の広域交付制度については「戸籍の広域交付とは?遺産分割・相続放棄にどう影響?」をご覧ください。
※掲載中の解決事例は、当事務所で御依頼をお受けした事例及び当事務所に所属する弁護士が過去に取り扱った事例となります。