状況
Oさんの両親は、Oさんが子供の頃に離婚しました。
母がOさんの親権者となり、Oさんは父と長年連絡を取っていませんでした。
そんな中、父の後妻の子と名乗る人物から、父が数年前に亡くなったことや父の遺産についての話合いを求める通知書が届きました。
Oさんは、異母きょうだいが存在した事実や父が亡くなった事実に大変驚きました。
ただ、母との離婚前の父には借金があったことや、異母きょうだいとの関わりを持ちたくないと考えたことから、Oさんは相続放棄をしたいと考えました。
しかし、Oさんは、相続放棄は被相続人が亡くなってから3か月以内に行わなければならないと聞いたことがあったため、「もう相続放棄できないのではないか」と大きな不安を感じ、当事務所にご相談されました。
弁護士の活動
弁護士は、まずOさんと父との関係や父の相続発生を知った経緯、相続放棄を希望する理由について詳しく伺いました。
そして、Oさんと父に長年交流がなかったことや異母きょうだいからの通知書を受領して初めて父が亡くなったことを知ったことなどを具体的に主張した上で、相続放棄申述を行いました。
その結果、家庭裁判所に相続放棄が受理されました。
ポイント
1 相続放棄の理由~他の相続人と一切関わりたくない~
相続放棄を行う理由として一番多いのは、「被相続人の負債(借金)が資産よりも多くなっている」というものです。
それ以外に、売却等が困難な不動産が存在するため相続を希望しない、被相続人の面倒を看てくれていた相続人に遺産をすべて取得させたい、他の相続人と今後関わりたくないため相続も希望しないなどの理由で相続放棄を希望される方もおられます。
今回のケースでは、Oさんとしては、仮に被相続人に遺産があったとしても、それ以上に異母きょうだいとのかかわりを一切持ちたくないという強いご意向でした。
そのため、弁護士は慎重にOさんのご意向を確認した上で、被相続人の財産状況の調査を積極的に行うことなく相続放棄の申述を行いました。
2 遺産がプラスかマイナスか不明…そんな時はどうすれば?専門家と相続財産調査を検討しましょう
被相続人の遺産が不明であるためものの、被相続人が債務超過だった場合のリスクを避ける目的で相続放棄を検討される方もおられます。
このような場合に遺産の金額や内容次第では相続を希望する可能性があるのであれば、まずは相続財産の調査を行うべきです。
もしも熟慮期間内に相続財産の調査が終わらない見込みである場合、家庭裁判所に対し熟慮期間の伸長を求めた上で、相続財産を行う時間を用意することで対応することが可能です。
3 【重要】相続放棄の期限、誤解していませんか?「知った時から3ヶ月」がポイント!
注意が必要なのは、相続放棄が「受理」されたからといって相続放棄の効力が確定するわけではないという点です。
相続放棄の「受理」は、要式行為である相続放棄のあったことを公証する行為であり、相続放棄が有効であることを確定する裁判ではないとされています。
そのため、相続放棄の申述が家庭裁判所に受理されたとしても、相続放棄が有効であることが確定するわけではなく、債権者が事後的に訴訟で相続放棄の有効性を争ってくる可能性があります。
そこで、相続放棄の手続きのために収集した資料については、受理後も大切に保管しておき、万が一、債権者から相続放棄の有効性を争われた場合に備えておくことが重要です。
相続放棄が受理された後に相続放棄が無効とされるリスクについては、以下の関連記事をご覧ください。
関連記事:相続放棄は受理後でも無効になる?~「受理」の意味と注意点~
4 消滅時効
相続放棄の期限(熟慮期間)は、「被相続人の相続発生から3か月以内」ではなく、「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内」です(民法915条1項)。
そのため、今回のケースでは、Oさんが父が亡くなった事実を知って3か月以内であれば相続放棄を行うことができることから、熟慮期間内の相続放棄が可能でした。
なお、存在を全く把握していなかった異母きょうだいからの連絡があったとしても、戸籍謄本など被相続人の死亡の事実を証明する資料などが示されていない場合には、被相続人の死亡の事実を未だ覚知したとはいえない可能性があります。
その場合、戸籍謄本などを示されたタイミングが「自己のために相続の開始があったことを知った時」となることあります。
この問題については、詳しくは以下の記事をご覧ください。
関連記事:亡くなった親族の借金…債権者からの通知で相続放棄の期限はスタートする?
※掲載中の解決事例は、当事務所で御依頼をお受けした事例及び当事務所に所属する弁護士が過去に取り扱った事例について、案件や依頼者様の特定ができないように内容を編集したものです。