
遺産分割に関するQ&A

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非上場株式の相続、損しないための「配当還元方式」とは?弁護士が計算方法と注意点を解説
非上場株式は、上場株式とは異なり客観的な市場価値が存在しません。
そのため、評価方法によって金額に大きな差が出る可能性があり、遺産分割における争点となりやすい財産です。
この記事では、非上場株式の評価方法の一つである配当還元方式について、計算方法や間違いやすい部分などを交え、弁護士が分かりやすく解説します。

1 配当還元方式とは?~少数株主のためのシンプルな評価方法~
配当還元方式とは、その株式から「将来受け取れる配当金はいくらか?」という点に着目した評価方法です。
具体的には、1年間の配当金額を一定の利率(10%)で割り戻すことによって、元本である株式の価額を評価します。
会社の経営支配力を持たない少数株主にとって、株式を保有することにより得られる経済的利益は配当に限られるのが実情です。
そこで、配当還元方式では、会社の資産や利益のすべてを評価の基礎とするのではなく、株主に分配される配当金のみに着目することで、少数株主の実態に即した、かつ、簡便な評価を行うことを目的としています。
配当還元方式のメリット・デメリット
メリット:少数株主の実態にあった評価ができ、計算方法もシンプル
デメリット:会社の配当性向が低い場合、株式の評価額が不当に低くなってしまうおそれがある
2 どんな時に使うの?~配当還元方式が適用されるケース~
2.1 簡易判定
配当還元方式は、原則として、会社の経営に影響力を持たない「少数株主」が取得した株式を評価する際に用いられます。
そこで、ひとまずは「会社の経営を左右する立場にない株主」の株式を評価する際に使われる、と理解しておけば良いでしょう。
ご自身のケースで、この配当還元方式を使うのが適切かどうか、有利になるかどうかが、最初の重要な判断ポイントになります。
2.2 【より詳しく知りたい方へ】財産評価基本通達の定め
非上場株式の評価方法として、国税庁が定めた「財産評価基本通達」があります。
これは、相続税及び贈与税の税額計算を行う場面における財産評価方法についてまとめたものです。 財産評価基本通達では、以下の場合には非上場株式の評価について配当還元方式を用いるとされています(同通達168、178、188)。
同族株主の有無 | 配当還元方式が用いられることになる株主 | 財産評価基本通達188との関係 |
---|---|---|
いる | 同族株主以外の株主 | (1) |
いる | 同族株主であるものの、中心的な同族株主や役員ではなく、議決権が5%未満の株主 | (2) |
いない | 同族関係者を含め議決権が15%未満である株主 | (3) |
いない | 中心的株主が存在する場合において、その株主と同族関係者の議決権が15%以上であるが、役員ではなく、議決権が5%未満の株主 | (4) |
※「同族株主」
課税時期における評価会社の株主のうち、株主の1人及びその同族関係者(法人税法施行令第4条((同族関係者の範囲))に規定する特殊の関係のある個人又は法人をいう。以下同じ。)の有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の30%以上(その評価会社の株主のうち、株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数が最も多いグループの有する議決権の合計数が、その会社の議決権総数の50%超である会社にあっては、50%超)である場合におけるその株主及びその同族関係者をいう。
※「中心的な同族株主」
「中心的な同族株主」とは、課税時期において同族株主の1人並びにその株主の配偶者、直系血族、兄弟姉妹及び1親等の姻族(これらの者の同族関係者である会社のうち、これらの者が有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の25%以上である会社を含む。)の有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の25%以上である場合におけるその株主をいう。
※「中心的な株主」
課税時期において株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の15%以上である株主グループのうち、いずれかのグループに単独でその会社の議決権総数の10%以上の議決権を有している株主がいる場合におけるその株主をいう。
関連リンク:
・相続財産評価に関する基本通達|国税庁Webサイト
・財産評価基本通達|国税庁Webサイト
3 相続・遺産分割について配当還元方式は用いられる?
遺産分割を行うにあたり非上場株式の評価について合意できない場合、最終的には遺産分割調停や遺産分割審判の中で公認会計士による株価鑑定を行うべき状況となります。
しかし、株価の鑑定には多額の費用が掛かる一方(とくに会社が不動産を所有する場合には不動産鑑定士による不動産鑑定を行った上で、公認会計士による株価の鑑定を行うことになるため、総額数百万円以上の費用が掛かることもあります。)、株価の鑑定方法として確立した評価方法があるわけではなく鑑定結果の予測可能性が低いこともあり、実際には株価の鑑定を行う事案というのは多くありません。
そこで、相続・遺産分割の場面において、株価の鑑定を行わないときに裁判例でどのように非上場株式が評価されるかを検討します。
3.1 裁判例
遺留分算定の基礎となる非上場株式の評価方法について、財産評価基本通達に則り非上場株式の評価を行うべきと判示。
「証拠(乙7)によれば,相続開始時におけるB炭鉱及びC商社の株式の価額は,国税庁の財産評価基本通達により計算すると,B炭鉱が1株あたり4347円,C商社が1株あたり23円と算定されるところ,これをもって相続開始時の価額であると認めるのが相当である。被控訴人は,平成7年3月10日控訴人及び〇〇によりB炭鉱の株式が1株2万2000円,C商社の株式が1株1万1000円で売却されていることから,上記額をもって相続開始時の価額とすべきであると主張する。しかしながら,証拠(乙8)によれば,控訴人及びXは,Yから同族会社である上記B炭鉱等の株式の贈与を受けたため,控訴人において13億円,Xにおいて12億円を超える贈与税をそれぞれ支払わなくてはならないことになり,その資金捻出のためにB炭鉱の株式をC商社に,C商社の株式をB炭鉱にそれぞれ売却したものであることが認められる。上記売買は,一郎の経営する同族会社の株式をYの経営する他の同族会社に売却するものであり,売却の目的に照らすと時価より高額に評価されていることが優に推認できるから,上記売却額をそのまま相続開始時の価額と見るのは相当でなく,結局,財産評価基本通達による評価額による方が相当であるというべきである。」
遺留分算定の基礎となる非上場株式の評価方法について、配当還元方式により非上場株式の評価を行うべきと判示。
「本件株式(4950株)は非上場会社における非公開株であるところ、相続発生時の直近である平成31年度(令和元年)の決算に関する報告書(甲30)によれば、発行済株式総数は750万株であり、大株主上位10名の合計持株数は全体の78%以上の割合を占めている。令和元年及び翌2年における配当金は1875万円、一株当たりの配当金は2.50円である。また、本件株式は議決権なき株式であり、相続税の評価額では1株25円である(乙12)。
ところで、非公開株を所有する小株主は、会社に対する支配欲というより、その配当等の資金運用を主眼としていることが通常と考えられることから、このような小株主が所有する株式の評価については、純資産方式(純資産額を発行済株式総数で除した評価)ではなく、配当還元方式(配当金額を基準とし発行済株式数で除した評価)によるのが合理的といえる。
本件株式は議決権もなく、全体に占める割合は0.00066%に過ぎないから、配当還元方式によるのが相当である。」
遺留分算定の基礎となる非上場株式の評価方法について、純資産方式と配当還元方式を2:1の割合で考慮した金額を非上場株式の評価とした。
「ア 本件会社は閉鎖会社であり,その資本金は2億0113万5650円,発行済株式総数は402万2713円であり,被相続人は少数株主であった。
イ 平成15年度から平成24年度(会計年度は当年4月1日から翌年3月31日まで)までの本件会社の売上高は,約95億4053円から約187億9959万円の範囲内で推移しており(平成23年度は約119億4866万円),同期間の1株当たり当期利益は,マイナス33.94円から18.91円で推移しており(平成23年度は4.85円),同期間の1株当たり純資産額は,286円62銭から326円26銭の範囲で推移しており(平成23年度は310円87銭),同期間の剰余金に対する1株当たりの配当額は,平成15年度が2円,平成16年度から21年度まで及び平成24年度が各3円,平成23年度が4円であった。
(2) そこで検討するに,本件会社の会計書類上は平成23年度当時の株式は1株当たりの純資産額は310円87銭であった(なお,被告は本件会社の本店所在地の土地の含み益を考慮すると,1株当たりの時価純資産額は約383円57銭である旨主張するが,他の資産の含み損の有無及び額が不明であり,採用できない。)ものの,本件会社は閉鎖会社であり,かつ,被相続人は少数株主であること,また,本件会社は近々清算が予定されたような企業ではないことなどからすれば,本件株式の価額を1株当たりの時価純資産額のみを基に算出することは相当ではない。そして,いわゆる配当還元法を参考に,極く簡略化した計算ではあるが,直近2年の配当額の平均3.5円を資本還元率を10%として割り戻して算出される金額が35円となること,その他前掲各証拠を総合すれば,本件株式は1株当たり219円(310円87銭及び35円を概ね2:1の割合で考慮した金額)として計算することが相当である(7万2407株で1585万7133円)。」
遺留分算定の基礎となる非上場株式の評価方法について、類似業種比準方式により非上場株式の評価を行うべきと判示。
「(1) 取引相場のない株式を評価する手法には,会社の純資産を基準として算出する手法,類似する取引事例と比較する手法,会社の収益を基準として算出する手法等の様々な手法があるが,そのうち,国税庁長官による基本通達(乙18資料1ないし3参照)では,その会社の規模及び株主の態様によって区分し,大会社の株式評価については類似業種比準方式によること(場合により純資産価額方式によること又はこれを併用すること)を原則としつつ,例外的に,同族株主以外の株主等が取得した株式に関する場合には配当還元方式によることを定めている。このように,基本通達が取引相場のない大会社の株式について同族株主等か否かによって評価方式を異にした理由は,大会社はその企業の実態が上場会社とそれほど異ならないことから,事業内容が類似する上場会社の株価に比準してその株式の評価額を定める(場合により1株当たりの純資産価額を算出し又はこの手法を併用することで評価額を定める)ことが,大量かつ統一的な処理が要請される課税事務の現場では合理的かつ適当である一方で,同族株主以外の株主等については,会社に対する事実上の支配力がなく専ら配当受領にしか関心のない零細株主である場合が多いことから,例外的に,配当金額を基礎として株式評価を行う配当還元方式を採用するのが相当であるという点にあるものと考えられる。
(2) そして,上記1(1)ウ,(1)エによれば,亡Aが死亡時に保有していた本件株式にかかる△△テレビの議決権は1万8000個であり,△△テレビにおける当該時点における議決権総数(60万個)の3%に過ぎないから,I税理士が指摘するとおり,基本通達(ただし,平成29年5月17日改正のもの)188の「(3)同族株主のいない会社の株主のうち,課税時期において株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数が,その会社の議決権総数の15%未満である場合におけるその株主の取得した株式」(乙18資料3参照)に該当し,相続税申告における本件株式の評価としては「同族株主以外の株主等が取得した株式」として配当還元方式を採用することになるものと考えられる。証拠(甲7(3頁))によれば,実際の相続税申告に際しても,H税理士の指摘するとおり,当時の基本通達に基づいて配当還元方式により価額を算出しているものと認められる。
(3) しかるに,上記1(1)エのとおり,亡Aは,△△テレビの大株主として事業報告書に記載されており,株主総数140名のうちの上位7番目の株式大量保有者であった上,当時の△△テレビの代表取締役社長であったLよりも多くの株式を保有していたのであるから,会社に対する事実上の支配力がなく専ら配当受領にしか関心がない零細株主であったとは認めがたい。そうすると,亡Aの保有していた本件株式の評価において,基本通達上は配当還元方式を用いるものであったにせよ,それは,課税事務における統一的処理の観点から定められた形式的基準によれば配当還元方式を用いることとなったものに過ぎず,その実態を勘案すれば,基本通達上の原則的手法でもある類似業種比準方式を用いる方がより相当であるものといえる。上記1(1)イのとおり,G税理士は類似業種比準方式が妥当であると指摘しているところ,G税理士が,相続税申告時には配当還元方式が採用されていることを当然に認識した上で類似業種比準方式が妥当であると結論づけたことも(甲7(3頁)参照),本件株式の評価にあたって類似業種比準方式がより相当であることを裏付けるものといえる。
そして,上記のとおり株式評価の手法が種々存在する中で,類似業種比準方式は相応の合理性を有するものであるといえる上,証拠(原告本人(2頁),証人E(1頁))及び弁論の全趣旨によれば,G税理士のよる本件株式の評価は,被告らの父親であり,本件訴訟において被告ら側の主張に沿う証言をするEこそが依頼したものであること,Eが,従前,G税理士作成の書面(甲7)を基に本件株式の評価をするよう主張していたと認められること(ただし,Eは,類似業種比準方式による場合よりも更に高額の評価となる純資産価額方式によるべきである旨主張していたものである。)等,本件訴訟に顕れた一切の事情を踏まえれば,本件株式の評価手法としては,類似業種比準方式を採用することが適当である。」
遺産分割を行う場面における非上場株式の評価方法について、配当還元方式に時価純資産方式を加味した鑑定結果に問題はないと判示。
「ア 本件株式についての双方から提出された意見書(公認会計士B作成の甲8(以下「B意見書」という。)、公認会計士C作成の乙15(以下「C意見書」という。))及び鑑定結果(鑑定人は公認会計士A、(以下「A鑑定」という。))をまとめると、以下のとおりとなる。
遺産の表示 | B意見書甲8 | C意見書乙15 | A鑑定 |
a興産(株)10,912株 | 6,219,130,720 | 247,462,336 | 571,286,848 |
b製罐(株)112,000株 | 501,939,200 | 79,520,000 | 159,376,000 |
c産業(株)13,890株 | 730,141,740 | 440,882,490 | 730,141,740 |
B意見書は、限定された資料に基づいたことを前提に、原則として、最も客観的な方法であるとして、純資産方式を採用している。資料が限定されており、評価も簡便に行っている。
C意見書は、最も客観的と考えられるとして、類似会社比準法を採用し、税法の類似業種比準法又は純資産方式を併用する方式も参考にして株価を算定している。C意見書については、B意見書において、a興産株式会社については、類似の会社を上場会社から見つけ出すのが困難である、b製罐株式会社も同族会社で株式の譲渡制限も付いているので、純資産方式が妥当である、類似会社比準法において、配当の比較をするのは会社の配当政策に依拠するので相当でない、非流通ディスカウントとして30パーセントを評価減とするのは流通性を前提としたもので相当でないなどと批判されている。
A鑑定は、基本的には、①a興産(株)とb製罐(株)については、時価純資産法と配当還元法による折衷方式により算定し、②c産業(株)については、時価純資産法を採用し、評価時点はいずれも平成21年2月16日である。
イ そこで、以下、検討する。
まず、本件は、被相続人が、遺言において、相続分の指定を行ったことから、申立人らが遺留分減殺の意思表示を行い、その結果、相続分が、上記のとおりとなった事案である。この相続分に基づいて遺産を分割することになる。遺産分割は、原則的には現物分割であるが、特別の場合には、共同相続人の一人又は数人に他の共同相続人に対し債務を負担させて、現物分割に代えることができる(家事審判規則109条。いわゆる代償分割)。したがって、代償分割の場合において、債務について遺産の分割方法という観点から検討すべきもので、申立人らがいったん取得した遺産としての株式を相手方らに売却する代償金という性質を有しているとまではいいきれない。
そこで、本件株式の価額について検討する。
B意見書は、自らも認めるとおり、限定された資料に基づいており、すぐには採用できない。
C意見書は、本件株式の会社がいずれも上場会社に匹敵するほど大きいとまではいえないこと、B意見書による批判内容からして、類似会社比準法を採用することにすぐには賛成できない。
A鑑定は、①のa興産(株)とb製罐(株)については、被相続人の有していた遺産である株式数からみて、経営権の移動がないと考えられるところから、配当還元方式を基本的に採用し、配当金の原資となる多額の剰余金を有していることから時価純資産法を加味している。非公開会社の株式評価として、大きく問題となることはない。②のc産業(株)については、被相続人の有していた遺産である株式は、議決権割合57パーセントであることから、時価純資産法を採用している。この点は、格別、問題はないといえる。
以上から、A鑑定を採用するのが相当である。」
会社の創業者が被相続人である事案において、遺留分算定の基礎となる非上場株式の評価方法について、配当金額を東証1部における有配会社の平均利回りで割り戻した金額を非上場株式の評価とする株式鑑定の結果が合理的であると判示。
「(ア) 株式鑑定の結果は,少数株主の評価に適した評価方法である配当還元法を用いることとし,1株当たりの配当実績(1.5円)を東証1部における有配会社の平均利回り(2.40%)で割ることにより,相続時におけるa社の株式の評価額を1株63円としている。そして,株式鑑定の結果において,配当還元法を選択した根拠として,被相続人の遺産である2万8400株は,発行済株式総数の2.4%に止まり,被告の従前の持株数は,発行済株式総数の10.2%であるから,本件株式を取得するか否かによって,会社支配には影響しないこと,a社の事業は安定しており,長期的にみて,破綻や清算という事態が想定できないこと等から,本件株式が単独株主権のみが反映された価値相当の価格で取引されると予想されること,過去の売買事例における売買代金額も1株50円であること等が挙げられており,これらの諸事情に照らすと,株式鑑定の結果が,配当還元法を用いて評価額を算出したことは,合理性を有するということができる。したがって,本件株式の相続時における評価額は,1株63円(合計178万9200円)と認めるのが相当である。
(イ) 原告らは,被相続人が,a社の財産を自由に動かすことができる立場にあったことや,D名義でa社の株式を有していたこと等からみて,被相続人が,親族及び知人名義で,a社の株式を保有し,いわゆる名義株を通じて,a社を支配しており,被相続人から被告へのa社の株式の承継が,a社の経営権の一部を後継者に移転させるものであり,実質的に同族会社の支配権を有している者がその支配の割合を強めることとなるから,株式の取引価格は,対象会社全体の価値を基礎に評価すべきであるとして,本件で採用すべき株式の価値の評価方法は,配当還元方式ではなく,純資産価額方式であり,これによるa社の株式の価値は,低く見積もっても1株当たり5056円であり,被相続人が有していた2万8400株の価額は,1億4359万0400円を下らない旨主張し,F会計士報告書等には,これに沿う記載が存在する。
しかし,被相続人は,a社の創業者として,昭和21年5月から一貫してその経営に当たり,技術者としても,独自の設計による機械の開発や,これを用いた工法の開発等を行うなどして,a社の業績を伸ばし,a社を,本社のほか全国12か所の営業所を有し,被相続人が死亡する直前の第92期(平成20年6月1日から平成21年5月31日まで)においても年間売上が20億円を超える会社に育て上げたことを考慮すると,被相続人の持株比率と関係なく,他の役員や株主が,被相続人に対し,特段の反対意見を述べないということは,十分にあり得る。また,上記1(20)で認定したとおり,a社の株主名簿(乙56の3)には,Dについて,鉛筆書きで「本来Aの株を一時名義のみDに移していたものを死亡により戻す。」との記載があるから,被相続人がD名義でa社の株式を保有していたことがあることが窺われるものの,原告らの主張するように,a社の発行済株式のほとんどが名義株であれば,むしろ,D名義の株式についてのみ,上記のような記載をする合理性は乏しく,また,本件で証拠として提出されている株主名簿には,上記のほかに,真の株主が被相続人であることを示す書き込み等も存在しない。これらの事情に加えて,上記1(19)で認定したとおり,a社は,株主名簿上の株主に株主総会の招集通知を送付していること,少なくとも株主の一人であるGが配当金を受領していること,株式鑑定の過程において,鑑定人は,a社から株主名簿の開示を受けたが,名義株の存在を窺わせるような事情を発見することができなかったことに照らすと,被相続人が,D名義の株式を除いて,他人名義でa社の株式を保有していたとは認められず,むしろ,各株主が,a社の経営について,創業者であり,a社を発展に導いてきた被相続人の方針をそのまま受け入れるという状態が,事実上,継続していたにすぎないというべきである。そして,a社の株式の客観的価値を算定するに際して,上記のような被相続人の一身専属的な支配力を考慮することは相当ではない。
以上を前提とすると,上記(ア)で説示したとおり,被相続人の遺産である2万8400株は,発行済株式総数の2.4%に止まり,被告の従前の持株数は,発行済株式総数の10.2%であるから,本件株式を取得するか否かによって,会社支配には特段の影響はなく,被告が上記株式の取得によってa社の支配を強めるという関係があるとはいえないから,F会計士報告書等の記載は,にわかに採用することができず,他にa社の株式の価値が,株式鑑定の結果を上回ると認めるに足りる的確な証拠はない。」
3.2 検討
上記のうち、裁判例①~④では株価の鑑定が行われておらず、裁判所が非上場株式の評価を行っています。
裁判例①では税務上の評価方法である「財産評価基本通達」によって株式の評価を行うべきとされ、裁判例②では、税務上、少数株主に適用すべき評価方法である配当還元方式により株式の評価を行うべきとされています。
また、裁判例③では、少数株主に適用すべき配当還元方式を参照しつつ純資産方式も考慮した上で株式の評価を行い、裁判例④では上位7位の株主であったこと等を考慮して少数株主に適用すべき評価方法ではなく原則的な評価方法である類似業種比準方式により株式の評価を行っています。
これらの裁判例を前提にすると、株価の鑑定が行われていない場合、裁判所は税務上の評価方法である「財産評価基本通達」を参照するものの、会社の純資産額や保有株式の割合を考慮して「財産評価基本通達」に規定されている評価方法を一部修正することがあるといえます。
一方、裁判例⑤、⑥では、公認会計士による株価の鑑定が行われています。
その場合、裁判所は、主として鑑定結果の合理性、正当性について判断することになりますが、当該正当性、合理性判断の中で「財産評価基本通達」の定める非上場株式の評価方法が参照されているものと考えられます。
3.3 会社法上の株式買取請求における株式評価方法との関係は?
株式を保有している場合に、会社に対し株式を買い取るよう請求することは原則としてできません。
しかし、以下の株主は会社に対して株式を買い取るよう請求することができます。
①会社が組織再編など株主の利益に重大な影響を与える一定の行為を行う場合における、反対株主
・株式の譲渡制限をする場合(会社法116条1項1号、2号)
・株式に全部取得条項を付す場合(会社法116条1項2号)
・ある種類の株式を有する種類株主に損害を及ぼすおそれがある一定の行為を行う場合であり、かつ種類株主総会の決議を要しない旨が定款で定められている場合(会社法116条1項3号)
・株式の併合をする場合(会社法182条の4)
・事業譲渡等をする場合(会社法469条)
・組織再編をする場合(会社法785条、797条。806条、816条の6)
②単元未満株主(会社法192条)
※その他に、譲渡制限株式について会社が譲渡を承認しない場合、会社が譲渡制限株式を買い取るということはあります(会社法140条1項)。
会社に対する株式買取請求は、会社による一定の行為(組織再編、単元株制度の採用など)を契機とする実質的な出資持分の払戻しであるところ、株主に投下資本を適切に回収させるという観点から買取価格を決定する必要があります。
そのため、理論的に最も合理的な評価方法と言われるディスカウント・キャッシュ・フロー法(DCF法、田中亘『会社法〔第3版〕』94頁)が参照されることが少なくありません。
一方、相続・遺産分割においては、投下資本の回収という観点ではなく、あくまで当該株式を売買する場合の客観的価値を算出するという観点から非上場株式を評価する必要があります。
とくに少数株主は、会社の経営支配力がなく配当性向について口を挟むことが事実上不可能であるところ、あくまで配当額をベースとして株式価値を算出せざるを得ない面は否定できません。
そのため、相続・遺産分割において非上場株式の評価を行う場合に、会社法上の株式買取請求の際に用いられる株式評価方法を参照すべきかについては疑義があるものと考えます。
4 計算方法は?~シミュレーションで簡単理解~
4.1 計算方法
配当還元方式の計算方法は以下のとおりです(財産評価基本通達188-2)。
「その株式に係る年配当金額」/10%×「その株式1株当たりの資本金等の額」/50円
このうち、「その株式に係る年配当金額」は、直前期末以前2年間におけるその会社の剰余金の配当金額(特別配当、記念配当等の名称による配当金額のうち、将来毎期継続することが予想できない金額を除く。)の合計額の2分の1に相当する金額を、直前期末における発行済株式数(1株当たりの資本金等の額が50円以外の金額である場合には、直前期末における資本金等の額を50円で除して計算した数によるものとする。(2)及び(3)において同じ。)で除して計算した金額です(財産評価基本通達188-2、183)。
そのため、上記計算式は以下のとおり変形できます。
(「直前期末以前2年間における配当金額の合計額の2分の1」÷直前期末における資本金等の額/50円)/10%×「その株式1株当たりの資本金等の額」/50円
=(「直前期末以前2年間における配当金額の合計額の2分の1」×1株当たりの資本金等の額/直前期末における資本金等の額)/10%
=「直前期末以前2年間における1株当たりの配当金額の2分の1」/10%
したがって、財産評価基本通達で定められている配当還元方式によれば、直近2期の1株当たりの配当金の平均額の10倍(10%で割り戻した額)が1株当たりの評価額となります。
間違いやすいポイント
財産評価基本通達188-2のうち、「その株式に係る年配当金額」は、1株当たりの資本金等の額を50円とした場合の金額を指していることに注意が必要です。
「その株式に係る年配当金額」が2円50銭未満の場合の計算方法
「その株式に係る年配当金額」が2円50銭未満の場合、これを2円50銭として計算します(財産評価基本通達188-2)。
そのため、この場合は直近2期の1株当たりの配当金の平均額の10倍ではなく、(2円50銭/10%)×(「その株式1株当たりの資本金等の額」/50円)が1株あたりの評価額となります。
4.2 計算例
【配当が2円50銭を超えている場合の例】
・2年前の1株あたり配当金:30円
・1年前の1株あたり配当金:50円
Step1:平均配当金を計算する (30円+50円)÷2=40円
Step2:10%で割り戻す(10倍する) 40円×10=400円
この場合の1株あたりの評価額は400円となります。
【配当が2円50銭未満の場合の例】
・1株当たりの資本金等の額:500円
Step1:平均配当金を計算する 2円50銭
Step2:10%で割り戻す(10倍する) 2円50銭×10=25円
Step3:「1株当たりの資本金等の額/50円」を乗じる 25円×500円/50円=250円
この場合の1株当たりの評価額は250円となります。
※本記事では「配当還元方式による非上場株式の評価」について解説いたしました。
しかし、実際の事案では個別具体的な事情により法的判断や取るべき対応が異なることがあります。
そこで、相続・遺産分割についてお悩みの方は、本記事の内容だけで判断せず弁護士の法律相談をご利用いただくことをお勧めします。