相続放棄に関するQ&A
相続放棄に関するQ&A
相続放棄後に被相続人口座に振り込まれた未支給年金はどうする?
Question
父が亡くなった後、相続人全員が相続放棄をしました。
しかし、未支給年金については父と生計を同じくしていた母が受給できると聞いたのですが、すでに未支給年金が父名義の口座に振り込まれていました。
父の口座に振り込まれた未支給年金について、母はどのように対応すればよいでしょうか。
Answer
母が被相続人の口座から未支給年金相当額を引き出すとの対応は、自力救済として違法となる可能性があるだけでなく、債権者から相続放棄の無効を争われるリスクもあるため避けるべきといえます。
では、どのように対応すればよいかというと、相続財産清算人が選任されている場合には相続財産管理人へ未支給年金を請求するという方法があります。
一方、相続財産清算人が選任されていない場合には相続財産法人に対する訴訟提起及び強制執行を行うことが考えられます。
相続放棄後に被相続人名義の口座に未支給年金が振り込まれた場合の対応について、より詳しくお知りになりたい方は以下をご覧ください。
1 未支給年金とは?
年金の受給権者が死亡した時点における未支給の年金は、生計を同じくしていた①配偶者、②子、③父母、④孫、⑤祖父母、⑥兄弟姉妹、⑦①~⑥以外の3親等以内の親族がこれを受け取ることができます(未支給年金を受け取ることができる順位は①から⑦の順番になります。国民年金法19条、同施行令4条の3の2)。
年金は、死亡日の属する月まで支給されること(国民年金法18条1項、厚生年金保険法36条1項)及び偶数月に前月までの2か月分の年金が支給されること(国民年金法18条3項、厚生年金保険法36条3項)から、年金の受給権者が死亡すると必然的に未支給年金が発生することになります。
なお、未支給年金は被相続人が死亡した日の属する月までの年金が対象になりますが、日本年金機構が被相続人の死亡の事実を把握する前までにタイムラグがあることから、被相続人が死亡した後の年金が支払われるという過払が生じることがあります。
その場合、当該過払分は返納する必要がありますので注意が必要です。
※未支給年金の請求手続については、日本年金機構のWebサイトや厚生労働省のWebサイトご参照ください。
国民年金法
第18条
1 年金給付の支給は、これを支給すべき事由が生じた日の属する月の翌月から始め、権利が消滅した日の属する月で終るものとする。
2 年金給付は、その支給を停止すべき事由が生じたときは、その事由が生じた日の属する月の翌月からその事由が消滅した日の属する月までの分の支給を停止する。ただし、これらの日が同じ月に属する場合は、支給を停止しない。
3 年金給付は、毎年二月、四月、六月、八月、十月及び十二月の六期に、それぞれの前月までの分を支払う。ただし、前支払期月に支払うべきであつた年金又は権利が消滅した場合若しくは年金の支給を停止した場合におけるその期の年金は、その支払期月でない月であつても、支払うものとする。被相続人の子または代襲相続人
第19条
1 年金給付の受給権者が死亡した場合において、その死亡した者に支給すべき年金給付でまだその者に支給しなかつたものがあるときは、その者の配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹又はこれらの者以外の三親等内の親族であつて、その者の死亡の当時その者と生計を同じくしていたものは、自己の名で、その未支給の年金の支給を請求することができる。
2 前項の場合において、死亡した者が遺族基礎年金の受給権者であつたときは、その者の死亡の当時当該遺族基礎年金の支給の要件となり、又はその額の加算の対象となつていた被保険者又は被保険者であつた者の子は、同項に規定する子とみなす。
3 第一項の場合において、死亡した受給権者が死亡前にその年金を請求していなかつたときは、同項に規定する者は、自己の名で、その年金を請求することができる。
4 未支給の年金を受けるべき者の順位は、政令で定める。
5 未支給の年金を受けるべき同順位者が二人以上あるときは、その一人のした請求は、全員のためその全額につきしたものとみなし、その一人に対してした支給は、全員に対してしたものとみなす。
国民年金法施行令
第4条の3の2
法第十九条第四項に規定する未支給の年金を受けるべき者の順位は、死亡した者の配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹及びこれらの者以外の三親等内の親族の順序とする。
厚生年金保険法
第36条
1 年金の支給は、年金を支給すべき事由が生じた月の翌月から始め、権利が消滅した月で終るものとする。
2 年金は、その支給を停止すべき事由が生じたときは、その事由が生じた月の翌月からその事由が消滅した月までの間は、支給しない。
3 年金は、毎年二月、四月、六月、八月、十月及び十二月の六期に、それぞれその前月分までを支払う。ただし、前支払期月に支払うべきであつた年金又は権利が消滅した場合若しくは年金の支給を停止した場合におけるその期の年金は、支払期月でない月であつても、支払うものとする。
第37条
1 保険給付の受給権者が死亡した場合において、その死亡した者に支給すべき保険給付でまだその者に支給しなかつたものがあるときは、その者の配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹又はこれらの者以外の三親等内の親族であつて、その者の死亡の当時その者と生計を同じくしていたものは、自己の名で、その未支給の保険給付の支給を請求することができる。
2 前項の場合において、死亡した者が遺族厚生年金の受給権者である妻であつたときは、その者の死亡の当時その者と生計を同じくしていた被保険者又は被保険者であつた者の子であつて、その者の死亡によつて遺族厚生年金の支給の停止が解除されたものは、同項に規定する子とみなす。
3 第一項の場合において、死亡した受給権者が死亡前にその保険給付を請求していなかつたときは、同項に規定する者は、自己の名で、その保険給付を請求することができる。
4 未支給の保険給付を受けるべき者の順位は、政令で定める。 5 未支給の保険給付を受けるべき同順位者が二人以上あるときは、その一人のした請求は、全員のためその全額につきしたものとみなし、その一人に対してした支給は、全員に対してしたものとみなす。
2 相続放棄と未支給年金の関係性
未支給年金は「自己の名で」請求できる(国民年金法19条1項)ものであるため、受給権者は未支給年金を固有の財産として受領することになります。
そのため、法定相続人は相続放棄した場合でも未支給年金を受給することが可能です。
3 相続放棄後に未支給年金が被相続人名義の口座に振り込まれたときはどうすればよいか?
3.1 口座から引き出してよい?
まず、被相続人の預貯金口座から未支給年金相当額を引き出すとの対応が考えられます。
しかし、未支給年金の受給権者が被相続人の預貯金口座から出金した上でこれを受領する行為は、債権者による自力救済として違法となり得るものと考えます。
また、被相続人の預貯金口座から未支給年金を引き出すと他の債権者から相続放棄の無効を争われる可能性が出てくるというリスクがあります。
厳密にいえば、被相続人の相続発生後に被相続人の預貯金口座に入金された未支給年金は相続財産にはあたらないため、未支給年金の受給権者がこれを引き出して自己のものにしたとしても法定単純承認事由である処分行為(民法921条1号)にはあたらないものと考えます。
しかし、お金には色がないといわれるところ、被相続人の預貯金を原資として債務を弁済する行為は他の債権者からは処分行為にあたるようにみえてしまいます。
そして、他の債権者から相続放棄の無効を争われた場合には当該無効の主張に対応しなければならなりませんが、他の債権者への対応を強いられるということ自体がリスクといえます。
そのため、被相続人の口座から未支給年金相当額を引き出すという行為は避けるべきといえます。
3.2 考えられる対応
相続放棄していない相続人がいる場合には当該相続人へ未支給年金相当額を請求することになります。
しかし、一部の相続人が相続放棄するという場合、被相続人が債務超過に陥っているため、全ての相続人が相続放棄していることが多いのが実情です。
相続人全員が相続放棄している場合には相続財産は法人となる(民法951条)ため、現実的な対応としては次のような対応が考えられます。
①相続財産清算人が選任されている場合
相続財産清算人へ未支給年金を請求する。
②相続財産清算人が選任されていない場合
相続財産法人に対し未支給年金の返還を求め訴訟提起及び強制執行の申立てを行う(訴訟提起や強制執行の申立てにあわせ特別代理人選任の申立てを行う(民事訴訟法37条、35条1項、民事執行法20条))。
※なお、相続財産清算人の選任申立てのためには家庭裁判所へ予納金を数十万円から100万円程度納付しなければならないところ、未支給年金を回収することのみを目的として相続財産清算人の選任申立てを行うことは現実的ではありません。
※本記事では相続放棄後に被相続人名義の口座に振り込まれた未支給年金の取扱に関するポイントをご紹介いたしました。
しかし、実際の事案では個別具体的な事情により法的判断や取るべき対応が異なることがあります。
そこで、相続問題についてお悩みの方は、本記事の内容だけで判断せず弁護士の法律相談をご利用いただくことをお勧めします。