相続放棄はどこに申述する?|被相続人の本籍や住所が不明なときの対応方法

相続放棄に関するQ&A

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相続放棄はどこに申述する?|被相続人の本籍や住所が不明なときの対応方法

Question

親戚から、被相続人の死亡と私が相続人であることを知らされましたが、被相続人の住所や本籍は不明です。
借金がある可能性がある上、借金がないとしても相続は希望しません。

そこで、相続放棄をしたいのですが、被相続人の最後の住所が分からない場合、どの家庭裁判所に申述すればよいのでしょうか。

Answer

亡くなった方(被相続人)の最後の住所が分からなくても、相続放棄を諦める必要はありません。

基本的には、住民票の除票(じょひょう)や戸籍の附票(ふひょう)といった書類を集めて最後の住所地を調べ、その住所地を管轄する家庭裁判所に相続放棄の申述を行います。
もし、書類集めに時間がかかり、ご自身が相続人だと知ってから3か月という期限(熟慮期間)に間に合わない恐れがある場合は、例外的な対応も考えられます(詳しくは本文で解説します)。

まずは落ち着いて、住所を調べることから始めましょう。

1 相続放棄の申述先はどこ?|基本ルールと法律の定め

相続放棄の申述先となる家庭裁判所は、相続開始地である被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です(家事事件手続法201条1項、民法883条)。
そのため、被相続人の最後の住所地が分からない場合には申述先となる家庭裁判所が分からないという事態が生じます。

家事事件手続法201条1項
相続の承認及び放棄に関する審判事件(別表第一の九十の項から九十五の項までの事項についての審判事件をいう。)は、相続が開始した地を管轄する家庭裁判所の管轄に属する。

民法883条
相続は、被相続人の住所において開始する。

2 被相続人の住所が分からないときの対応方法

では、被相続人の最後の住所が分からない場合、相続放棄するためにはどうすればよいでしょうか。

【①被相続人の過去の住所が分かっている場合の流れ】

過去の住所地の市区町村役場へ住民票の除票(本籍の記入があるもの)を請求する。
住民票の除票に記載の本籍、転出先住所を基に被相続人の戸籍や戸籍の附票を収集する。
判明した最終住所地を管轄する家庭裁判所へ相続放棄を申述する。

【②被相続人の本籍が分かっている場合の流れ】

本籍地の市区町村役場へ戸籍を請求し、戸籍を収集する。
被相続人の死亡時点での戸籍の附票を取得する。
判明した最終住所地を管轄する家庭裁判所へ相続放棄を申述する。

【③被相続人の過去の住所が分からない場合の流れ】

自身の戸籍から被相続人の戸籍を辿る(被相続人が父母の場合は自身の過去の戸籍から、被相続人がおじ・おばの場合は自身の父母や祖父母の戸籍から辿ることになります。)。
被相続人の死亡時点での戸籍の附票を取得する。
判明した最終住所地を管轄する家庭裁判所へ相続放棄を申述する。

住民票の除票、戸籍の附票の保存期間
従前、住民票の除票の除票や戸籍の附票の保存期間は「消除した日から5年」とされていました(令和元年政令第26号による改正前の住民基本台帳法施行令34条1項)。

しかし、令和元年(2019年)6月20日から、保存期間が「住民票又は戸籍の附票を消除し、又は改製した日から150年間」に延長されています(住民基本台帳法施行令34条第1項)。

そのため、被相続人の過去の住所のみ分かっているという場合、過去の住民票については既に保存期間が経過しており住民票の除票が取得できないという事態が生じることが少なくなかったのですが、保存期間が延長されたことで被相続人の住民票の除票や戸籍の附票、ひいては戸籍の収集を行いやすくなったといえます。

ただし、各自治体により対応が異なるものの、令和元年6月20日以前に保存期間が経過した住民票の除票や戸籍の附票は請求できない可能性がある点には注意が必要です。

3 時間がないときはどうする?|熟慮期間内に申述するための方法

上記2のとおり、戸籍を収集した上で戸籍の附票を取得することにより被相続人の最後の住所は明らかとなります。

しかし、相続放棄は「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内」(熟慮期間)に家庭裁判所へ申述する必要があるところ、戸籍や戸籍の附票の取得が熟慮期間内に終わりそうにないという場合があります。
その場合はどのように対応したらよいでしょうか。

まず、相続の承認又は放棄をすべき期間(熟慮期間)の伸長の申立てを行った上で、その間に戸籍や戸籍の附票を収集するとの手段が考えられますが、熟慮期間の伸長申立ての管轄裁判所も被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所であることから、相続放棄の管轄裁判所が不明な場合に関する解決策とはなり得ません。

このような場合、裁判所と事前に調整した上、被相続人の最後の住所地が判明後に管轄裁判所への移送申立て(手続きを本来の裁判所に引き継いでもらう申立て)を行う可能性があることを前提として相続人の住所地を管轄する家庭裁判所へ相続放棄申述書を提出し、被相続人の最後の住所が判明した後に必要に応じて訂正申立て(提出した書類の内容を直す申立て)及び移送申立てを行うことが考えられます。

上記対応により、被相続人の最後の住所が分からない状況であっても相続発生の事実を知った時から3か月以内に相続放棄を行うことができ、相続放棄が受理されないリスクや事後的に相続放棄が無効と判断されるリスクに対応することが可能です。

関連リンク:上記対応により熟慮期間内に相続放棄の申述を行うことができた事例「被相続人の住所が不明なまま熟慮期間が迫っていたHさんの事例」もご参照ください。

なお、親戚から被相続人が亡くなった事実及びそれに伴い自身が相続人となった事実を伝えられたとしても、被相続人の住所や本籍が分からずあくまで相続人となった可能性の認識に留まるという場合には未だ「自己のために相続の開始があったことを知った」とはいえない可能性もあります。

関連リンク:「亡くなった親族の借金…債権者からの通知で相続放棄の期限はスタートする?」では、熟慮期間の起算点について詳しく解説しています。


※本記事では「被相続人の本籍や住所が不明な場合の相続放棄|どこの家庭裁判所へ申し立てる?」について解説いたしました。
しかし、実際の事案では個別具体的な事情により法的判断や取るべき対応が異なることがあります。

そこで、相続問題についてお悩みの方は、本記事の内容だけで判断せず弁護士の法律相談をご利用いただくことをお勧めします。