公正証書遺言に誤記があり相続登記できない場合は?「誤記証明書」と対処法を弁護士が解説

遺言に関するQ&A

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公正証書遺言に誤記があり相続登記できない場合は?「誤記証明書」と対処法を弁護士が解説

Question

亡くなった父の公正証書遺言をもとに相続登記を申請したところ、法務局から「遺言書に記載された父の住所に誤記があるため登記できない」と言われてしまいました。

どう対応すればよいでしょうか?

Answer

まずは遺言書を作成した「公証役場」へ連絡し、「誤記証明書」を発行してもらえるか確認しましょう。
明らかな誤記であれば、公証人に「誤記証明書」を発行してもらい、それを遺言書と一緒に法務局へ提出することで相続登記を完了できる可能性があります。

1 まずは作成した公証役場へ!「誤記証明書」で対応できるケース

公正証書遺言の誤記が「明らかな入力ミスや転記ミス」であり、公証人が作成時の資料等から誤記であることを確認できる場合には、「誤記証明書」等の書面が発行されることがあります。

誤記証明書について、その名称、発行要件、申請手続や法的効果を直接定めた法令上の明文規定は確認できませんが、公証実務上、明らかな誤記を説明するために利用されています。誤記証明書その他の資料によって遺言者や対象財産を特定できると登記官が判断すれば、相続登記が認められることがあります。

誤記証明書の発行が考えられる主な例

  • 住所の桁抜け: 実際の住所「123番45」が、遺言書では「123番4」となっている
  • 氏名の漢字間違い: (例)戸籍上は「山田太郎」だが、遺言書では「山田大郎」となっている
  • 口座番号の桁抜け: (例)実際の「1234567」が、遺言書では「123456」となっている

ご自身のケースがこれらに該当しそうな場合は、速やかに遺言書を作成した公証役場へ問い合わせてみましょう。

当事務所における取扱い例
当事務所が実際に取り扱った事案では、誤記証明書について手数料はかからず、依頼した当日に発行されました。

もっとも、誤記に当たるかの判断や作成時資料の確認に要する時間は事案によって異なりますので、費用や発行時期については、作成した公証役場へご確認ください。

2 公正証書遺言でも誤記が生じることはある?

公正証書遺言は、作成に公証人が関与する上、作成にあたり公証人へ遺言者の本人確認資料や遺言内容に関連する資料を提出します。
そのため、公正証書遺言に誤記などが生じることは多くはありません。

しかし、人間が作成するものである以上、誤記が発生することがあります。

公証人が遺言者の本人確認書類等を確認する根拠
公正証書遺言を作成しようとする遺言者は、公証人に対し、本人確認書類を提供しなければなりません(公証人法28条)。
遺言者本人の確認資料としては、印鑑登録証明書を提出する方法のほか、これに代えて、運転免許証、旅券(パスポート)、マイナンバーカード等の官公署発行の顔写真付き本人確認資料を利用することが可能です。

また、公証人は、「法令に違反する事項、無効な行為及び行為能力の制限によって取り消すことができる行為について、公正証書を作成することができない。」(公証人法26条)とされているところ、公正証書遺言の内容について検討する必要があります。
加えて、公正証書遺言の手数料は、遺言の目的の価額に応じて変動します。

そのため、公正証書遺言の作成にあたり、公証人から、遺言内容の検討及び手数料の算定のため、遺言内容に関連する資料を提出するよう求められることとなります。

関連リンク:Q3.公正証書遺言をするには、どのような資料を準備すればよいでしょうか?日本公証人連合会Webサイト

3 誤記証明書で対応できない場合はどうしたらよい?

誤記証明書が発行されるのは、あくまで明らかな誤記が存在する場合のみです。
そのため、明らかな誤記とまではいえない場合には、その他の方法による解決を検討する必要があります。

3.1 遺言書の「解釈」によって内容を確定できる場合

遺言は、遺言書の文言を形式的に判断するだけではなく、遺言書の全記載との関連、遺言書作成当時の事情、遺言者の置かれていた状況などを考慮した上で条項の趣旨を解釈すべき(最高裁昭和58年3月18日第二小法廷判決・判時1075号115頁)とされています。

また、遺言書の解釈にあたり遺言者の意思を合理的に解釈し、可能な限り遺言が有効となるように解釈することが遺言者の意思に沿うとされている(平成5年1月19日第三小法廷判決・民集47巻1号1頁)ところ、明らかな誤記ではないとしても、遺言書を作成した経緯や遺言者の置かれていた状況等に照らし、遺言書を一義的に解釈できる場合があります。

このような場合には、遺産分割をするのではなく、所有権移転登記請求その他事案に応じた民事訴訟を提起し、裁判所による遺言の解釈を通じて解決できる可能性があります。

例えば、自筆証書遺言に、遺贈の目的として単に「不動産」と記載され、その所在地として遺言者の住所(住居表示)が記載されていた事案があります。
この住居表示は、土地の登記上の地番にも建物の家屋番号にも一致していませんでしたが、最高裁は、遺言書の記載等から、遺言者の住所地にある土地と建物を一体として遺贈する意思であったと解釈しました(最高裁平成13年3月13日第三小法廷判決・判時1745号88頁)。
この判決は、単なる誤記を訂正したものではなく、遺言書に記載された「不動産」という文言の意味を合理的に解釈した事例です。

民事訴訟によって遺言の内容に基づく権利関係を確定することができれば、遺産分割によるのではなく、遺言に基づく相続又は遺贈による財産の取得として解決できる可能性があります。
そのため、遺言書の内容が自身に有利な場合には、誤記証明書によって処理できないからといって直ちに遺産分割を行うのではなく、まずは遺言の合理的な解釈によって解決できないかを検討することが重要です。

最高裁昭和58年3月18日第二小法廷判決・判時1075号115頁

遺言の解釈にあたつては、遺言書の文言を形式的に判断するだけではなく、遺言者の真意を探究すべきものであり、遺言書が多数の条項からなる場合にそのうちの特定の条項を解釈するにあたつても、単に遺言書の中から当該条項のみを他から切り離して抽出しその文言を形式的に解釈するだけでは十分ではなく、遺言書の全記載との関連、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などを考慮して遺言者の真意を探究し当該条項の趣旨を確定すべきものであると解するのが相当である。

最高裁平成5年1月19日第三小法廷判決・民集47巻1号1頁(クリックすると開きます。)

「遺言の解釈に当たっては、遺言書に表明されている遺言者の意思を尊重して合理的にその趣旨を解釈すべきであるが、可能な限りこれを有効となるように解釈することが右意思に沿うゆえんであり、そのためには、遺言書の文言を前提にしながらも、遺言者が遺言書作成に至った経緯及びその置かれた状況等を考慮することも許されるものというべきである。」

最高裁平成13年3月13日第三小法廷判決・判時1745号88頁(クリックすると開きます。)

「遺言の意思解釈に当たっては、遺言書の記載に照らし、遺言者の真意を合理的に探究すべきところ、本件遺言書には遺贈の目的について単に「不動産」と記載されているだけであって、本件土地を遺贈の目的から明示的に排除した記載とはなっていない。一方、本件遺言書に記載された「〇〇区〇〇丁目〇〇番地〇号」は、Aの住所であって、同人が永年居住していた自宅の所在場所を表示する住居表示である。そして、本件土地の登記簿上の所在は「〇〇区〇〇丁目」、地番は「〇番〇」であり、本件建物の登記簿上の所在は「〇〇区〇〇丁目〇番地〇号」、家屋番号は「〇番地〇の〇」であって、いずれも本件遺言書の記載とは一致しない。以上のことは記録上明らかである。
 そうすると、本件遺言書の記載は、Aの住所地にある本件土地及び本件建物を一体として、その各共有持分を上告人に遺贈する旨の意思を表示していたものと解するのが相当であり、これを本件建物の共有持分のみの遺贈と限定して解するのは当を得ない。

3.2 遺言書の解釈でも対象財産を特定できない場合

誤記証明書によっても、遺言書の合理的な解釈によっても対象財産を特定できない場合には、その財産について遺言による処分の効力が及ばないと判断される可能性があります。

具体的には、遺言の中で遺贈しようとした不動産の地番に誤りがあるものの、不動産が複数存在するため遺言者が遺贈しようとした不動産を特定することができない場合など考えられます。

この場合には、まず、遺言書に「その他一切の財産」などの残余財産条項がないかを確認します。
残余財産条項によっても処理できない場合には、その財産が法定相続又は遺産分割の対象となることがあります。相続人間で協議が成立しない場合には、家庭裁判所における遺産分割調停・審判を検討します。

※本記事では「公正証書に誤記があった場合に取るべき対応」について解説いたしました。
しかし、実際の事案では個別具体的な事情により法的判断や取るべき対応が異なることがあります。

そこで、相続問題についてお悩みの方は、本記事の内容だけで判断せず弁護士の法律相談をご利用いただくことをお勧めします。

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関連法令

公証人法
第28条(嘱託の方法等)
嘱託人は、公正証書の作成を嘱託する場合には、法務省令で定めるところにより、公証人に対し、官公署の作成した印鑑に関する証明書又は署名用電子証明書等(電子署名等に係る地方公共団体情報システム機構の認証業務に関する法律(平成十四年法律第百五十三号)第三条第一項に規定する署名用電子証明書その他の電磁的記録であって法務省令で定めるものをいう。第三十二条第三項において同じ。)を提供する方法その他の法務省令で定める方法により、嘱託人が本人であることを明らかにしなければならない。

公証人法施行規則
第22条
1 法第二十八条の規定による嘱託をする場合において、署名用電子証明書等の電磁的記録を提供して嘱託人が本人であることを明らかにするときは、嘱託人が、当該嘱託に係る情報について電子署名を行い、かつ、これに電子署名等に係る地方公共団体情報システム機構の認証業務に関する法律(平成十四年法律第百五十三号)第三条第一項に規定する署名用電子証明書その他自己が電子署名を行つたことを確認するために必要な事項を証明するために作成された電磁的記録であつて法務大臣が指定するもの(以下「電子証明書」という。)を付した上で、これを電気通信回線により指定公証人に送信してするものとする。
2 法第二十八条に規定する電磁的記録であつて法務省令で定めるものは、電子証明書とする。
3 法第二十八条の法務省令で定める方法は、官公署の作成した印鑑に関する証明書又は法第二十八条に規定する署名用電子証明書等を提供する方法その他これに準ずる確実な方法とする。ただし、公証人が嘱託人の氏名を知り、かつ、嘱託人と面識がある場合において、公証人がその旨を適宜の方法により確認したときは、この限りでない。

公証人法第26条(法令に違反する事項等についての公正証書の作成の制限)
公証人は、法令に違反する事項、無効な行為及び行為能力の制限によって取り消すことができる行為について、公正証書を作成することができない。